イヌカキネガラシ

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イヌカキネガラシ.広島市安芸区(撮影:坪田博美,2008年5月9日)

イヌカキネガラシ Sisymbrium orientale L.

シノニム

その他

分類

維管束植物門 Tracheophyta > 種子植物亜門 Spermatophytina > 被子植物上綱 Angiospermae > モクレン綱(双子葉植物綱) Magnoliopsida > バラ上目 Rosanae > アブラナ目 Brassicales > アブラナ科 Brassicaceae > キバナハタザオ属 Sisymbrium

旧分類

種子植物門 Spermatophyta > 被子植物亜門 Angiospermae > 双子葉植物綱 Dicotyledoneae > アブラナ科 Brassicaceae > キバナハタザオ属 Sisymbrium

解説

  • イヌカキネガラシは,一年生または越年生の草本である.一年生または二年生草本とされる場合もあるが,広島県内での観察結果では8月末にはほとんどの場所で枯死しており,冬場に幼生株が見られる場合があった.植物体は高さ25–85(–100) cm.茎は直立し,ほとんど分岐しないか,中程かやや基部に近い所で数回分岐する.直根が発達する.植物体全体に白くて長い軟毛が散生し,とくに茎の下部で目立つ.葉は互生し,下方から上方に向かって次第に小さくなり,花の近傍では葉が無いか非常に小型になる.葉の頂裂片は鋭頭になることが多いが,根生葉では鈍頭のものもある.表面に伏毛が密生するが,植物体全体的に毛が少ないものもある.下方の葉は鋸歯が存在し,羽状深裂し,長さ8–16 cm,幅2–4 cmになる.上方の葉は側裂片が次第に少なく細くなり,鋸歯が無いか非常に少なく,最上部では矛型または披針形になる.冬場に見られる若い株ではロゼット状になり,葉に鋸歯がほとんどないものもある.3月下旬–7月に開花.花は径8–10 mm,アブラナ科の一般的な形態であるが,やや小型で黄色.花弁は黄色で,萼片は多毛で角状突起はない.花序の先端だけが開花し,開花後すぐに果実が成長する.若い果実は軟毛が生え,斜上し,先端の花よりも上部に達する場合が多い.果実は成熟するとともに伸長し,次第に開出し,花茎と90度弱の角度をなす.成熟すると堅く細長い果実(長角果)となる.長角果は,長さ3–10(–12) cm,太さ0.5–1.2 mmの細長い円柱型で,直線的であるがわずかに湾曲し,先端までほぼ一定の太さ.果実の表面の毛は,成熟後も基部側には残存する.果柄は長さ4–5 mmで,太さは果実と同程度.果実は,成長した植物体では1本の花茎に10–15本が,5–30 mmの間隔で付く.果実は2室からなり,種子は1列ずつ並ぶ.種子は丸みのある楕円体で,大きさにバラツキがあり,成熟すると長さ0.8–1.3 mm.イヌカキネガラシの類似種としては,カキネガラシホソエガラシハタザオガラシがある.ハタザオガラシカキネガラシとは,イヌカキネガラシは上部の葉が矢じり状になる点で区別できる.また,ハタザオガラシは果柄が6–10 mmとイヌカキネガラシよりも長い点,ハタザオガラシの萼片は無毛で,外側の2枚には角状突起がある点も異なる(坪田ほか 2013).

花期

  • 3月中旬〜5月中旬

分布・産地・天然記念物

分布

イヌカキネガラシの広島県内での分布.●は標本で確認された地点,○は野外で確認された地点.Fig. 12. Distribution of the naturalized plant, Sisymbrium orientale L. (Brassicaceae) in Hiroshima Prefecture, southwest Japan. Filled circles show record(s) with herbarium or voucher specimen(s); open circles are observed locality without a specimen; transverse line indicates an administrative district with herbarium or voucher specimen(s); oblique line represents an administrative district with record(s) based on a literature reports. The GIS data for the mapping were downloaded from National Land Numeric Information Download Service <http://nlftp.mlit.go.jp/> by National Land Information Division, National and Regional Policy Bureau, Ministry of Land, Infrastructure, Transport and Tourism, Japan.
  • 福山市,尾道市,三原市,東広島市,呉市,広島市(安芸区,南区,中区,西区,佐伯区),廿日市市,大竹市
  • 広島市安芸区瀬野(2008年4月28日)・広島市南区仁保-東雲(2008年4月18日)・廿日市市佐方(2008年4月18日)・広島市佐伯区石内(2009年6月4日)
  • イヌカキネガラシは,福山市と尾道市,三原市,東広島市,呉市,広島市(安芸区,南区,中区,西区,佐伯区),廿日市市,大竹市で分布が確認された.文献調査では,福山市(建設省福山工事事務所 1978; 江塚・松本 1985; 広島大学理学部附属宮島自然植物実験所・比婆科学教育振興会 1997),尾道市(広島大学理学部附属宮島自然植物実験所・比婆科学教育振興会 1997),呉市(太刀掛 1982, 1999, 2010),広島市(南区: 関 1980, 三上 2002, 世羅ほか 2010; 西区: 三上 2002),大竹市(弥栄ダムと記されているため山口県側の可能性もあり, 国土交通省 2007)で記録が確認された.標本調査では,藤井氏の標本sf-5946については状態が悪かったが,茎の毛の状態とDNAの配列の結果から,イヌカキネガラシであることが確認できた.また,ハタザオガラシと同定された標本1点について検討したところ,イヌカキネガラシであった.宮島自然植物実験所の標本データベース化の過程で,三上幸三氏が1974年5月に広島市南区宇品で採集した標本が広島大学植物標本庫(HIRO)に収蔵されていることが新たに確認された.また,高木哲雄氏が1934年5月に広島市南区東千田の旧広島大学キャンパスで採集したカキネガラシと同定された標本が確認されたが,同定の結果イヌカキネガラシであることが判明した.栽培された可能性もあるが,これが広島でもっとも古い記録となる.2004–2013年にかけて行った野外調査では,三原市と東広島市,安芸郡海田町,広島市(安芸区,中区,佐伯区),廿日市市で新たに生育が確認された.いずれも,幹線道路などの日当たりの良い路傍や荒地で,土上だけでなく,アスファルトやコンクリートの隙間に生育する個体もあった.生育期間は4–7月が主であったが,刈り取られて脇芽から再生したものや,実生が秋から冬にみられる場合もあった(坪田ほか 2013).

産地

天然記念物

標本

慣用名・英名・広島県方言

慣用名

英名

広島県方言

備考

  • 環境庁コード: 22450
  • 帰化

DNA data/barcording

cp rbcL gene

nr 18S rRNA gene and ITS region

nr ITS region

Phylogeny

Fig. 14. Phylogenetic tree based on analysis of the nuclear ribosomal internal transcribed spacer (ITS) region, depicted by the programs RAxML version 7.6.3 (Stamatakis 2006) and Garli version 2.0 (Zwickl 2011). Supporting values more than 50% obtained by the program RAxML for bootstrap probabilities (BP) with 10,000 replicates and BEAST version 1.7 (Drummond 2012) for Bayesian posterior probabilities (PP) are shown on or near each branch (BP/PP; in %). The root is arbitrarily placed on the branch leading to Arabidopsis thaliana (CP002686) and Draba crassa (DQ467634) following the other phylogenetic tree based on neighbor-joining (NJ) method by MEGA version 5.2 (Tamura et al. 2011) with ca. 500-sequence dataset for the Brassicaceae (not shown).

文献(出典)

  • 関(1980),太刀掛(1982),江塚・松本(1985),広島大学理学部附属宮島自然植物実験所・比婆科学教育振興会(1997),太刀掛(1999),太刀掛(2010),坪田ほか(2013)坪田ほか(2014)

引用文献


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