亜熱帯林について

提供: 広島大学デジタル博物館
ナビゲーションに移動検索に移動

亜熱帯林について

熱帯多雨林(tropical rain forest)は1年を通じて高温多湿(最寒月平均気温18℃以上,年間降水量が2000 mm以上)の地に成立する常緑高木林である.熱帯多雨林の特徴として,非常に多種類の木本植物が密生しており1 ha当たり木本だけで100種を超えることも珍しくない,樹冠(crown)の構成種が多く優占種(dominant species)は明らかでない(土壌条件の悪い時優占種がはっきりする,また熱帯多雨低木林のマングローブは優占種がある),階層構造(stratification)が明らかでない,木の幹が細長くまっすぐ伸びて長い枝下部を持つ,そのために板根(plank buttress)や支持根をもつ木が多い,芽は保護芽鱗を持たず,葉は無毛で厚く光沢をもち縁に鋸歯や切れ込みがない,葉の先端が尖り滴下先端(drip-tip)をなし葉につく水切りを良くし,林内にヤシや木性シダが生育し,木性つる植物(liana)や着生植物(epiphyte)が多い,太い木の幹にじかに花を咲かせ実を結ぶ幹生花(果)(cauliflory)が見られ,絞殺木(しめころし植物 strangler)とよばれる気根で他の植物や岩にまとわりついてその木を絞め殺すものがありイチジク属(Ficus)植物に多い,食虫植物やアリ植物の存在,林内は非常に暗いので林床植物の葉は薄くてクチクラ層の発達が悪い,葉上に生育するコケや地衣があり葉上植物(epiphyll)という,季節性が少なく木に年輪(annual ring)がない,分解がはやいので土壌中の有機物が少なく落葉落枝層は発達しない,などをあげることができる. 吉岡(1973)は亜熱帯林について,定義が極めて曖昧であると指摘しており,熱帯以外の常緑広葉樹林を亜熱帯林としたり,亜熱帯林と温帯林を分けたり,あるいは温帯林だけとしたりする場合がある.亜熱帯に相当する緯度は一般的に乾燥気候となり,サバナや荒原となっていて,それは熱帯のサバナや荒原と余り変わりはない.亜熱帯多雨林や温帯常緑広葉樹林に相当する常緑広葉樹林があまりないことから混乱が生じるが,東アジアでは熱帯系要素の植物を多く持つ亜熱帯常緑広葉樹林からそれの少ない暖温帯常緑広葉樹林(照葉樹林)への推移が認められる. 亜熱帯林と温帯林を分ける見方にたてば,例えば琉球列島の西表島の沿岸部にはアコウ,ガジュマル,テリハボク,ハマイヌビワ,ハスノハギリ,クロヨナ,アカテツ,リュウキュウガキなど熱帯系の樹木が多い亜熱帯多雨林があり,またマングローブ林,サキシマスオウノキ,サガリバナなどの湿性林,アダン林などもあり亜熱帯的であるが,山地帯ではスダジイやオキナワウラジ□ガシの優占する温帯性の常緑広葉樹林(照葉樹林)がある.宮城(1985)によると,二次林にマツ科(亜熱帯:リュウキュウマツ;温帯:アカマツ,クロマツ)が出現することも熱帯林との違いとされている.また,琉球列島の森林は暖温帯林と比較すると,クスノキ属,ルリミノキ属,ボチョウジ属,イチジク属,マンリョウ属,ハイノキ属,ツバキ科,林床にオニヘゴ属,クロツグ属などの種類が豊富であるとも述べている.また,植物社会学的には,日本の亜熱帯林は暖温帯と同じくヤブツバキ群綱に含められており,琉球列島はスダジイ-ボチョウジ群団に位置づけられている.以上のように,亜熱帯林と暖温帯林とは位置的にも種組成的にも良く似た点を含んでおり,明確な区分をすることが十分になされていない.吉良(1948)の暖かさの指数では180-240の間が亜熱帯とされており,それでいくとトカラ海峡から南の奄美,琉球列島は亜熱帯である.この線を境としてフロラも大きくかわることは知られている.しかし,前述のとおり,琉球列島のスダジイ,マテバシイ,オキナワウラジ口ガシ,アマミアラカシ,タブノキなどの樹林は照葉樹林であり,相観的に暖温帯林との区別は困難である. 亜熱帯を広義に解釈するヨーロッパの研究者(シュミットヒューゼンなど)によると照葉樹林も地中海の硬葉樹林も亜熱帯林である.1913年に広島県の宮島を訪れたドイツの植物分類地理学者のエングラーも宮島の植物を激賞したといわれるが、その目に写ったのは亜熱帯林のすばらしさであったであろう.日本では暖温帯常緑広葉樹林あるいは照葉樹林として亜熱帯林とは区別されるようになり,現在ではこの見方がほぼ定着しているが,彼らには亜熱帯林に見えたのである.大場(1980)は亜熱帯に関して次のように述べている.『温度障壁によって形成された植生帯は次のような植生モデルで代表される.常緑広葉林(広義の熱帯),夏緑広葉林(温帯),針葉樹林(亜寒帯また冷帯),矮性低木群落と草原(塞帯),無植被(極帯).これと日本のシイ・カシを主体とする照葉林を対照すると,これは常緑広葉林,即ち広義の熱帯であることは明らかである.広義の熱帯の北部には,冬の寒さのために常伸をやめて間歇伸となり冬芽をもった照葉林が分布する.これを気候帯で呼べば狭義の熱帯に対して亜熱帯と呼ぶ外はない.日本の照葉林帯は亜熱帯である.同じ照葉林帯でも琉球にはマングローブなどがあり日本主部と植生全般の異点はある.しかし,その相違は照葉林帯(亜熱帯)の下位区分の問題に過ぎない.』.豊原ほか(1984)は広島県の滝山峡の植生帯について,暖温帯林(アラカシ林),下部中間温帯林(ウラジロガシを伴うモミ・ツガ林),上部中間温帯林(シデ林),冷温帯林(ブナ林)に区分しているが,これは余り一般的な見方でない.普通,下部中間温帯林としたところにはウラジ□ガシなどの常緑カシがあるので暖温帯林とみなされる.狭義の中間温帯とはカシもブナもないところをいう.その解釈でいけば滝山峡には中間温帯林は存在しないことになる.しかし,前述の4つの植生帯は区分されるので群落分類上の所属と名称の問題だけが残る.ここに亜熱帯林の名称を取り込んだらどうであろうか.常緑カシのある所は全て亜熱帯林とする大場(1980)の見解とは少し異なって,暖温帯林とした部分のみを亜熱帯林とし,下部および上部中間温帯林を移行帯として暖温帯林とし,冷温帯林と対比させるのはどうであろうか.温帯林は下部でモミ,ツガ,上部でウラジロモミ,コメツガ等の針葉樹の出現する移行帯を持つということにする.しかし,温帯の針葉樹林は第三紀の遺存的植生であり,第四紀の広葉樹林の発達との関係の説明は十分でない.というような話は琉球列島や台湾などの植生をもうすこし良く理解してからでないと出来ないことである.しかし,カシ(アラカシは別)を伴うモミ・ツガ林を暖温帯林あるいは照葉樹林とするにはなにか抵抗を感じるので中間温帯林を広く解釈しているのである.東亜にはヨーロッパには見られない独特の気候や植生があるので,必ずしもヨーロッパ的な見方だけでは説明がつかないほど複雑である.植生帯について明確な定義がないのが現状であると思っておいたほうがよい.夏の実習で見た高山帯についてもヨーロッパとは違う.日本には本当の高山帯はないとする見方が有力であり,その点はヨーロッパ的な解釈である.基本的なところで,まだまだ疑問が多いことを認識しておいてほしい. 引用文献1. 宮城康一.1985.亜熱帯林.沼田真(監修),現代生物学大系12a,生態A,62-65pp.中山書店,東京.2. 大場達之.1980.亜熱帯のこと.随想「森林」3:50-52.3. 豊原源太郎・石橋昇・鈴木兵二.1984.滝三峡の植生.滝三峡-自然と生活,総合学術調査研究報告,197-229pp.滝三峡総合学術調査委員会,広島4. 吉岡邦二.1973.植物地理学,生態学講座12,84pp.共立出版,東京.

(豊原源太郎; Dec. 7, 1986)