はじめに 宮島の植物と自然

提供: 広島大学デジタル博物館
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は じ め に

宮島と聞いて,皆さん何を思い浮かべますか?大鳥居や厳 島神社,シカ,秋の紅葉,もみじ饅頭などがよく聞かれる答 えです.宮島は,日本三景安芸の宮島や世界遺産としての顔 だけでなく,貴重な自然が残された場所としての顔ももって います.広島という100 万人規模の都市の近くで,これほ ど豊かな自然が残っている場所は,世界を探してもあまり例 を見ないように思います.この本は,その貴重な宮島の自然, とくに植生とその構成員である植物について解説したもので す.皆さんの野外観察の際の手引きになれば幸いです.


近年,環境に対する意識の高まりや,生涯学習としての野 外観察,山登りに親しむ人口の増加,宮島のシカの食害につ いての報道などにより,宮島自体への関心は高まっています. しかし,本質的に宮島が正しく理解されているかどうかを考 えたとき,ふと疑問を感じてしまう場合も少なくありません. 例えば,シカの食害が良い例です.食害があることは確かで すが,マスコミによる報道はあまりにも偏っているように感 じられます.餌付けなど,人間の勝手なエゴで,そのバラン スを崩したことが最大の原因であるにもかかわらず,その被 害者であるはずのシカだけが悪いと受けとめられかねない内 容が散見されます.シカの側からすれば迷惑な話です.宮島 は,シカなどの大型ホ乳類と森林が長い年月共存共栄し,そ の状態が今もなお残っている貴重な自然環境です.できるだ け自然本来の姿に戻していくのが,問題解決の本質でしょう.


宮島の自然を後世に残していくためには,その文化的な価 値だけでなく,そこにある自然の価値を理解した上で説明で きる人材を育成することが必要不可欠です.宮島の植物や植 生について,地元の小・中・高校生を対象に環境教育を行っ たり,生涯学習などの実践的な活動を通じて宮島を愛する人 を増やして行くことが,非常に時間はかかりますが,結局は 一番の近道ではないでしょうか.


以前から,広島大学大学院理学研究科附属宮島自然植物実 験所では,このような小冊子を作りたいといろいろと準備を してきました.しかし,それを生かす機会がなかなかありま せんでした.また,予算的な余裕もないため,長い間実現で きませんでした.それが,宮島の世界遺産10 周年記念も兼 ねた広島市植物公園の30 周年記念行事を行うにあたり,植 物公園の方々とやりとりをしている間に,小冊子を作るとい うアイディアが出てきました.これがきっかけとなり,この 本の編集の準備が始まりました.さらにその後,日産科学振 興財団のご理解を頂き,教育助成を受けることとなりました. また,サタケ科学振興会からも本書の発行をサポートして頂 く機会を得て,本書が日の目を見ることになりました.


この本の内容については,中学生など,より多くの方々に 理解してもらえるようにかみ砕いて解説したつもりです.し かし,まだまだ改善の余地があります.今後,内容をより分 かりやすくするため改訂していく予定です.この本を利用さ れてお気づきになった点があれば,ご教示頂ければ幸いです.  この本の制作にあたり,日産科学振興財団とサタケ科学振 興会,広島大学後援会から多大なる援助を頂きました.また, これまで宮島自然植物実験所に蓄積されてきた資産だけでな く,ヒコビア会やヒコビア植物観察会,広島市植物公園,広 島大学,広島大学デジタル自然史博物館からもご支援頂きま した.また,広島大学名誉教授の関太郎先生をはじめ,宮島 自然植物実験所々長の出口博則先生,前任の豊原源太郎先生 など,多くの先生方にアドバイスを頂きました.ヒコビア植 物観察会関係者など多くの方々にお世話になりました.また 本書を作成するにあたり,広島大学附属三原小・中学校,安 東中学校,広島城北中・高等学校,忠海高等学校,鈴峯女子 短期大学などの児童や生徒,学生の皆さんと指導・引率の先 生方やご父兄には,野外実習などにご協力頂きました.とく に,三原小・中学校の金丸先生や鈴峯女子短期大学の桝井先 生には,大変貴重なご意見とアドバイスを頂きました.この 場を借りて関係した方々に心よりお礼申し上げます.


広島には,未だ自然史博物館がなく,自然を理解するため の教育環境は十分に整っているとは言えません.しかし,宮 島というすばらしい環境が身近にあります.この本が一人で も多くの人にとって宮島を好きになるきっかけに,さらには 自然の大切さを考えるきっかけになれば,著者らにとって本 望です.

  2007 年吉日 宮島でカンコノキが色付きはじめる頃
   広島大学大学院理学研究科
   附属宮島自然植物実験所
   坪田博美・向井誠二

文献(引用)

「宮島の植物と自然」内のページ

「宮島の植物と自然」(広島大学大学院理学研究科附属宮島自然植物実験所 2009)内で掲載されているページ.

  • 1-3 pp.