廣島大學櫻曼荼羅 はじめに

提供: 広島大学デジタル博物館
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廣島大學櫻曼荼羅(広島大学桜曼荼羅,ひろしまだいがくさくらまんだら)―東広島キャンパスに咲く桜のいろいろ―

(撮影・製作:故・青山幹男博士)

はじめに

広島大学東広島キャンパスには、多くのサクラが生育しており春の開花の時期には花見に来る人も増えつつあります。本書では、それらのサクラの写真、植栽場所、特徴などを記し、多様な植物の変異の学習や花見の参考に供したいと思います。

広島大学は1973年に、広島市や福山市等に分散していた学部を西条地区に統合移転することを決定し、1979年工学部の造成工事が始まりました。1980年「広島大学新キャンパス総合計画1次案 緑化計画について」が策定され、アカデミック地区(外周グリーンベルト、角脇川周辺緑地、街路植栽など)の緑化基本方針が示され、角脇川周辺緑地では以前からあったアカマツ二次林を残し、その林縁の日当たりの良い場所ではコブシ(3月初旬にほかの樹木に先駆けて純白の花を枝いっぱいに咲かせ、遠くからも認めることができ、春の訪れを知らせる)や野生種のヤマザクラ等の花木を残したり補植することになりました。ここには、もう1種の野生種カスミザクラも残存しています。これらの野生種は大切に保存すべきと考えます。

その後の各学部等の移転に伴い、緑化計画に沿って園芸品種のソメイヨシノがキャンパス全域に植栽されました。特に、工学部南西の法面、陸上競技場周辺では道に沿って植栽されて旺盛に育ち、花期にはピンクのトンネルとなり風が吹くと花吹雪が見られ、花見の好適地になりました。ソメイヨシノは、江戸時代末期に江戸染井村(現在の東京都豊島区)の植木屋の交雑によって「吉野桜」として育種された園芸品種で、稔性がほとんどないため、接ぎ木による増殖によって遺伝的に全く同じもの(クローン)が人為的に生産され、この苗を植えたものです。したがって、別の個体でも同じ環境にあれば温度を感じると一斉に花を開花させて花弁を散らせ、美しい花吹雪となります。日本列島の沖縄から開花が始まり、ソメイヨシノの桜前線が北上して北海道に至るのはクローンが温度に敏感であることと関係しています。それでは、どうしてこのようにソメイヨシノが全国的に植栽されているのでしょうか。実はその背景には明治以降昭和までの日本の軍国主義拡張があります。花の散る潔さを、帝国陸軍や海軍は象徴とし、全国の軍の施設や学校に広く植栽することとなりました。また、ソメイヨシノは病害虫に弱く、100年を超すような老樹の維持は困難とされており、やがて古木の管理が必要になると考えられます。以上の理由から、平和を標榜する広島大学には、ソメイヨシノ以外の、京都や奈良の古刹で1000年以上生育している他の園芸品種の方がより好ましいのではないでしょうか。さらにここで、被爆ザクラを紹介します。現在の広島市役所本庁玄関に向かって南側に、被爆したソメイヨシノが今でも生育して花を咲かせています。広島市植物公園は被爆60周年を記念してこの被爆したソメイヨシノと江波気象台でやはり被爆したエバヤマザクラの枝から接ぎ木で増殖して配布しました。これらの苗の贈与を受け、中央図書館南側にある「国際の森」に植栽しました。この被爆ソメイヨシノはやや樹勢が弱いように見受けられますが、ぜひ大切に維持管理して頂きたいと思います。

1993‐98年には、原田康夫元広島大学学長の「桜1,111本」の音頭の元に多くの園芸品種が植栽されて、総計1,135本が達成されました。国際協力研究科の南西角脇調整池近くの石碑には「春響小径」と揮毫があり、周囲にセンダイシダレ、ベニシダレ、ヤエベニシダレなどが植栽されています。

その後2007‐15年にかけて約200本の園芸品種の苗を購入して植栽しました。その間、品種の選定、1年間の育苗、移植、管理、花の写真撮影は植物管理室の青山幹男博士が実施しました。本書では、青山氏が撮影した写真を用いています。現在、東広島キャンパス(アカデミック地区内)には、79種・品種 総計約1,300本のサクラが生育しています。

サクラは一般に病害虫に弱く、適切な管理が必要です。異常な多数分枝をするテング巣病や、幹や根元にキノコが発生する ならたけ病などの感染や、コスカシバの幼虫による幹の穿孔、ガの幼虫による葉の食害を受けて樹勢が衰えて枯死します。ガの幼虫はシダレザクラ系の柔らかい葉を好み、油断すると一晩のうちにすべての葉が食べられてしまうこともあり、早いうちに見つけて駆除する必要があります。

キャンパス内の土壌は風化した花崗岩で、養分が少なく定期的な施肥が必要です。また根を踏み固めると樹勢が弱りますので、根が張っている部分には近付かないで、できるだけ遠くから観察してください。


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