スミレモ類 宮島の植物と自然

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スミレモ類 Trentepohlia

分類

スミレモ科 Trentepohliaceae,スミレモ属 Trentepohlia やプリンツスミレモ属 Printzina

解説

 宮島で樹木の幹(みき)を見ていると,オレンジ色になっているものがあります.近づいてよく見ると,その色は樹皮(じゅひ)本来の色ではなく,(みき)の表面に何か粉のようなものが付着して,オレンジ色になっていることが分かります.あるいは,やや日陰の石垣やのり面の表面も,同じようにオレンジ色になっているところがあります.こちらは,粉状(こなじょう)のものもあれば繊維状(せんいじょう)のものもあります.カビやコケ植物と間違われる場合もありますが,実はこれらはスミレモ類という藻類(そうるい)なのです.

 スミレモ類は緑藻類(りょくそうるい)に属し,海に生育する海藻のアオサなどと同じ仲間です.一般に,藻類は水中で生育するものが多いのですが,スミレモ類は陸に上がった藻類です.スミレモ類のように,空気中の水分を利用して,陸上で生活する藻類を気生藻(きせいそう)といいます.陸上で生活するためには,乾燥や温度変化,光の強さの違いや紫外線への対応などいくつもの障壁があります.スミレモ類は陸上植物(りくじょうしょくぶつ)とは別のやり方でうまく陸上で生活するようになった仲間と考えられています.

 スミレモ類は熱帯(ねったい)を中心に世界に広く分布しています.日本でも宮島のように暖かい場所では,スミレモ類が多く見られます.スミレモ類が付いた所はオレンジ色に見えます.このオレンジ色は,スミレモ類の細胞の中に蓄えられた色素の色で,ヘマトクロームhaematochromeと呼ばれる赤橙色(せきとうしょく)のカロテノイド系carotenoidの色素です.陸上では水中よりも紫外線が強いため,この色素で自分の体を守っていると考えられています.また,地衣類のモジゴケ属 Graphisやスミレモモドキ属 Coenogoniumなどで見られるように,地衣類の共生藻(きょうせいそう)になるものもあります.日本産のスミレモ類は,スミレモ Trentepohlia aureaやミノスミレモTrentepohlia arborum,プリンツスミレモ Printzina lagenifera など, わずかしか知られていませんが,詳細については現在研究が進んでいる段階です.

 スミレモという名前は,スミレの香りがするためと書かれていることが多い.しかし実際に野外で嗅(か)ぐ限り,スミレの香りがするようには感じない.スミレモは英語名でRock violet algae とも呼ばれ,和名はその直訳ではなかろうか.

「宮島の植物と自然」内のページ

「宮島の植物と自然」(広島大学大学院理学研究科附属宮島自然植物実験所 2009)内で掲載されているページ.

  • 126-127 pp.

文献(引用)


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