宮島の植生 宮島の植物と自然

提供: 広島大学デジタル博物館
2015年4月6日 (月) 20:38時点におけるIkeda (トーク | 投稿記録)による版
ナビゲーションに移動検索に移動

宮島の植生

弥山原始林の植生と植物

 瀰山(みせん)(以下,弥山と表記)原始林(げんしりん)は,弥山(535 m)の北斜面一帯の森林を指しており,宮島では最も自然が保たれてきた場所です.弥山原始林の植生(しょくせい)は,大きく分けると,山麓部(さんろくぶ)の緩斜面(かんしゃめん)と海抜(かいばつ)300 mよりも低い山地,300 m以上の山地の三つの部分に分けられます.また,アカマツが多く見られる天然の二次林(にじりん)も存在します.

1.山麓部の緩斜面

 宮島では,山麓部の緩斜面にはクスノキが見られる林(クスノキ–クマノミズキ群落(ぐんらく))が,大元公園(おおもとこうえん)や紅葉谷公園(もみじだにこうえん)付近ではモミミミズバイが多く見られる林(モミ–ミミズバイ群落)が見られます.これらの森林では,モミクスノキ,カヤ,ミミズバイカンザブロウノキシキミアセビイヌガシシロダモ,タイミンタチバナ,ホウロクイチゴハスノハカズラ,イズセンリョウ,ヒメイタビ,キッコウハグマなどの植物が見られます.

2.海抜300 mよりも低い山地

 宮島では,海抜300 mよりも低い山地の斜面にはコジイなどの植物が見られるコジイ群落が発達します.タイミンタチバナ,シリブカガシトキワガキ,ウバメガシ,ミミズバイなどは300 mよりも低い所に出現(しゅつげん)します.この森林では,ブナ科(か)(コジイ,シリブカガシアラカシ)やツバキ科(ヤブツバキサカキヒサカキ,モッコク),クスノキ科(シロダモイヌガシ,ヤブニッケイ),ハイノキ科(クロキクロバイミミズバイカンザブロウノキ),モクセイ科のネズミモチ,バラ科のカナメモチ,シキミ科のシキミなどの照葉樹(しょうようじゅ)が豊富(ほうふ)です.また,サカキカズラテイカカズラマツブサ,ウラジロマタタビ,ミツバアケビ,サンカクヅルなどの木生(もくせい)つる植物も多く見られ,林床(りんしょう)にはベニシダ類などの陰生(いんせい)植物がみられます.

3.300 m以上の山地

 海抜300 m以上の斜面には,モミ– アカガシ群落が発達します.アカガシ,ウラジロガシ,ツクバネガシ,ハイノキ,ミヤマシキミなどは,おもに300 m以上の山地で見られます.この森林では,モミやツガ,アカガシ,ツクバネガシ,ウラジロガシ,カゴノキ,イヌガシシロダモ,ヤブニッケイ,シキミソヨゴクロバイ,ハイノキ,ヤブツバキヒサカキサカキなどが出現します.林床(りんしょう)には,ミヤマシキミ,サンヨウアオイ,ベニシダ類などの陰生(いんせい)植物が見られます.

4. 二次林

 弥山原始林内の二次林として,アカマツニ次林(アカマツ–クロバイ群落)があります.アカマツニ次林にはクロバイヤブツバキなどの照葉樹の他に,ネジキ,リョウブ,ウリハダカエデコバノミツバツツジなどの落葉広葉樹が混生(こんせい)し,林床には陽生(ようせい)植物のコシダウラジロが密生(みっせい)する傾向があります.ネズやヤマツツジ,ススキ,ガンピ,ミヤジマママコナなどの陽生植物を持つ型(かた)とイヌガシシロダモなどの陰生植物を持つ型に分けられます.

宮島の植生の変遷

1.明治のはじめまで

 宮島の植生は,昔からあまり手を加えられることなく比較的自然な状態で保たれてきたと考えられています.しかし,まったくの手つかずだったと言うわけではありません.例えば,廿日市市に現存する洞雲寺(とううんじ)に対する1541(天文(てんぶん)10)年発行の許可書(きょかしょ)が残(のこ)っており,従来(じゅうらい)通(どお)り宮島で薪(まき)をとってもよいという内容が記されています.また,江戸時代には宮島奉行(ぶぎょう)という森林行政機関(ぎょうきかん)が置かれていました.明治になって行なわれた調査の際の資料にも,薪炭(しんたん)用として利用されたという記録が残っていますが,森林犯罪者(はんざいしゃ)に対する刑罰(けいばつ)の記述(きじゅつ)があり,森林を利用しながらもかなり厳密(げんみつ)に管理(かんり)されていたことが伺(うかが)えます.

「宮島の植物と自然」内のページ

「宮島の植物と自然」(広島大学大学院理学研究科附属宮島自然植物実験所 2009)内で掲載されているページ.

  • 12-17 pp.

文献(引用)