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= ヒコビアミニレターNo. 446(2015年8月31日)=
 
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 2015年9月23日の第570回植物観察会は庄原市西城町の猫山(1195.5 m)で行われた.猫山スキー場の駐車場に10時30分集合.参加者名.猫山は道後山(1268.9 m)から約6 km南西にある独立峰で,全山が猫山橄欖岩と呼ばれるクローム鉄鉱を多量に含む岩石からなり,「猫山二里がわいていた」と云われるように猫山から二里四方の所はたたら製鉄で活況を呈した.また,橄欖岩が超塩基性岩の蛇紋岩に変成しているところが多く,矮小低木の[[イブキジャコウソウ]]や希少種の[[ネコヤマヒゴタイ]]が生育するなど,学術的に興味のある植物も多いことで知られている.[[ネコヤマヒゴタイ]]は湿原に生育する[[キリガミネトウヒレン]]の近縁種で,新見市思誠小の山口国太郎校長が猫山の乾燥草原で採取した標本に基づいて,北村史郎が昭和8年に新種として発表したものであり,その自生地の現状をみるのが,今回の目的である.駐車場(690 m)では,奥地に追いやられた[[オオマツヨイグサ]]と分布域拡大中の[[メマツヨイグサ]]とが並んで生育しているのが印象的であった.スキーリフトを左手に見ながらコナラ二次林の中を登ってゆくと780 m付近からヒノキ植林地となり,870 mでリフトの上部に到達し麓の三坂を一望する.900 m付近からはヒノキ植林地の中を西方へ横ばいで進む.[[ヤマヒョウタンボクがあった.960 mで尾根筋にでて,そこから尾根沿いにミズナラ二次林の中を登って行く.山頂に向かってはブナが目立って多くなり,1150 m付近ではブナ二次林となる.山頂から南西に向かう尾根筋に低木群落があり,[[ダイセンミツバツツジ]]や[[イヌツゲ]],[[レンゲツツジ]],[[ヤマツツジ]],[[ヒロハヘビノボラズ]],[[シモツケ]],[[チマキザサ]]?,[[ネザサ]],[[ススキ]],[[ショウジョウスゲ]],[[ミヤマイボタ]](矮性),[[イヨフウロ]],[[イタドリ]],[[コマユミ]]などに隠れたように[[ネコヤマヒゴタイ]]が僅かに生育しているのを確認し,岩上に[[イブキジャコウソウ]]を見ることが出来た.10数年前の観察会で猫山に来た時に比べて,低木林の様子はあまり変化していないように感じたが,[[ネコヤマヒゴタイ]]がやや貧弱になったようにも思える.低木林が遷移により森林群落に変化するのを妨げているのが蛇紋岩という地質条件,尾根筋の微地形,冬季の厳しい風雪を伴う微気候などであるが,長期間のうちに[[ミズナラ]]や[[タムシバ]],[[ブナ]]などの侵入により森林に変化すると[[ネコヤマヒゴタイ]]は滅びてしまうので見守っていく必要があるだろう.
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 2015年9月23日の第570回植物観察会は庄原市西城町の猫山(1195.5 m)で行われた.猫山スキー場の駐車場に10時30分集合.参加者名.猫山は道後山(1268.9 m)から約6 km南西にある独立峰で,全山が猫山橄欖岩と呼ばれるクローム鉄鉱を多量に含む岩石からなり,「猫山二里がわいていた」と云われるように猫山から二里四方の所はたたら製鉄で活況を呈した.また,橄欖岩が超塩基性岩の蛇紋岩に変成しているところが多く,矮小低木の[[イブキジャコウソウ]]や希少種の[[ネコヤマヒゴタイ]]が生育するなど,学術的に興味のある植物も多いことで知られている.[[ネコヤマヒゴタイ]]は湿原に生育する[[キリガミネトウヒレン]]の近縁種で,新見市思誠小の山口国太郎校長が猫山の乾燥草原で採取した標本に基づいて,北村史郎が昭和8年に新種として発表したものであり,その自生地の現状をみるのが,今回の目的である.駐車場(690 m)では,奥地に追いやられた[[オオマツヨイグサ]]と分布域拡大中の[[メマツヨイグサ]]とが並んで生育しているのが印象的であった.スキーリフトを左手に見ながらコナラ二次林の中を登ってゆくと780 m付近からヒノキ植林地となり,870 mでリフトの上部に到達し麓の三坂を一望する.900 m付近からはヒノキ植林地の中を西方へ横ばいで進む.[[ヤマヒョウタンボク]]があった.960 mで尾根筋にでて,そこから尾根沿いにミズナラ二次林の中を登って行く.山頂に向かってはブナが目立って多くなり,1150 m付近ではブナ二次林となる.山頂から南西に向かう尾根筋に低木群落があり,[[ダイセンミツバツツジ]]や[[イヌツゲ]],[[レンゲツツジ]],[[ヤマツツジ]],[[ヒロハヘビノボラズ]],[[シモツケ]],[[チマキザサ]]?,[[ネザサ]],[[ススキ]],[[ショウジョウスゲ]],[[ミヤマイボタ]](矮性),[[イヨフウロ]],[[イタドリ]],[[コマユミ]]などに隠れたように[[ネコヤマヒゴタイ]]が僅かに生育しているのを確認し,岩上に[[イブキジャコウソウ]]を見ることが出来た.10数年前の観察会で猫山に来た時に比べて,低木林の様子はあまり変化していないように感じたが,[[ネコヤマヒゴタイ]]がやや貧弱になったようにも思える.低木林が遷移により森林群落に変化するのを妨げているのが蛇紋岩という地質条件,尾根筋の微地形,冬季の厳しい風雪を伴う微気候などであるが,長期間のうちに[[ミズナラ]]や[[タムシバ]],[[ブナ]]などの侵入により森林に変化すると[[ネコヤマヒゴタイ]]は滅びてしまうので見守っていく必要があるだろう.
 
<div style="text-align:right">(G. Toyohara 記)</div>
 
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2015年9月7日 (月) 17:51時点における版

ヒコビアミニレターNo. 446(2015年8月31日)

 2015年9月23日の第570回植物観察会は庄原市西城町の猫山(1195.5 m)で行われた.猫山スキー場の駐車場に10時30分集合.参加者名.猫山は道後山(1268.9 m)から約6 km南西にある独立峰で,全山が猫山橄欖岩と呼ばれるクローム鉄鉱を多量に含む岩石からなり,「猫山二里がわいていた」と云われるように猫山から二里四方の所はたたら製鉄で活況を呈した.また,橄欖岩が超塩基性岩の蛇紋岩に変成しているところが多く,矮小低木のイブキジャコウソウや希少種のネコヤマヒゴタイが生育するなど,学術的に興味のある植物も多いことで知られている.ネコヤマヒゴタイは湿原に生育するキリガミネトウヒレンの近縁種で,新見市思誠小の山口国太郎校長が猫山の乾燥草原で採取した標本に基づいて,北村史郎が昭和8年に新種として発表したものであり,その自生地の現状をみるのが,今回の目的である.駐車場(690 m)では,奥地に追いやられたオオマツヨイグサと分布域拡大中のメマツヨイグサとが並んで生育しているのが印象的であった.スキーリフトを左手に見ながらコナラ二次林の中を登ってゆくと780 m付近からヒノキ植林地となり,870 mでリフトの上部に到達し麓の三坂を一望する.900 m付近からはヒノキ植林地の中を西方へ横ばいで進む.ヤマヒョウタンボクがあった.960 mで尾根筋にでて,そこから尾根沿いにミズナラ二次林の中を登って行く.山頂に向かってはブナが目立って多くなり,1150 m付近ではブナ二次林となる.山頂から南西に向かう尾根筋に低木群落があり,ダイセンミツバツツジイヌツゲレンゲツツジヤマツツジヒロハヘビノボラズシモツケチマキザサ?,ネザサススキショウジョウスゲミヤマイボタ(矮性),イヨフウロイタドリコマユミなどに隠れたようにネコヤマヒゴタイが僅かに生育しているのを確認し,岩上にイブキジャコウソウを見ることが出来た.10数年前の観察会で猫山に来た時に比べて,低木林の様子はあまり変化していないように感じたが,ネコヤマヒゴタイがやや貧弱になったようにも思える.低木林が遷移により森林群落に変化するのを妨げているのが蛇紋岩という地質条件,尾根筋の微地形,冬季の厳しい風雪を伴う微気候などであるが,長期間のうちにミズナラタムシバブナなどの侵入により森林に変化するとネコヤマヒゴタイは滅びてしまうので見守っていく必要があるだろう.

(G. Toyohara 記)

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