「宮島の植生 宮島の植物と自然」の版間の差分

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2015年7月2日 (木) 22:42時点における版

宮島の植生

弥山原始林の植生と植物

 瀰山(みせん)(以下,弥山と表記)原始林(げんしりん)は,弥山(535 m)の北斜面一帯の森林を指しており,宮島では最も自然が保たれてきた場所です.弥山原始林の植生(しょくせい)は,大きく分けると,山麓部(さんろくぶ)の緩斜面(かんしゃめん)と海抜(かいばつ)300 mよりも低い山地,300 m以上の山地の三つの部分に分けられます.また,アカマツが多く見られる天然の二次林(にじりん)も存在します.

1.山麓部の緩斜面

 宮島では,山麓部の緩斜面にはクスノキが見られる林(クスノキ–クマノミズキ群落(ぐんらく))が,大元公園(おおもとこうえん)や紅葉谷公園(もみじだにこうえん)付近ではモミミミズバイが多く見られる林(モミ–ミミズバイ群落)が見られます.これらの森林では,モミクスノキ,カヤ,ミミズバイカンザブロウノキシキミアセビイヌガシシロダモ,タイミンタチバナ,ホウロクイチゴハスノハカズラ,イズセンリョウ,ヒメイタビ,キッコウハグマなどの植物が見られます.

2.海抜300 mよりも低い山地

 宮島では,海抜300 mよりも低い山地の斜面にはコジイなどの植物が見られるコジイ群落が発達します.タイミンタチバナ,シリブカガシトキワガキ,ウバメガシ,ミミズバイなどは300 mよりも低い所に出現(しゅつげん)します.この森林では,ブナ科(か)(コジイ,シリブカガシアラカシ)やツバキ科(ヤブツバキサカキヒサカキ,モッコク),クスノキ科(シロダモイヌガシ,ヤブニッケイ),ハイノキ科(クロキクロバイミミズバイカンザブロウノキ),モクセイ科のネズミモチ,バラ科のカナメモチ,シキミ科のシキミなどの照葉樹(しょうようじゅ)が豊富(ほうふ)です.また,サカキカズラテイカカズラマツブサ,ウラジロマタタビ,ミツバアケビ,サンカクヅルなどの木生(もくせい)つる植物も多く見られ,林床(りんしょう)にはベニシダ類などの陰生(いんせい)植物がみられます.

3.300 m以上の山地

 海抜300 m以上の斜面には,モミ– アカガシ群落が発達します.アカガシ,ウラジロガシ,ツクバネガシ,ハイノキ,ミヤマシキミなどは,おもに300 m以上の山地で見られます.この森林では,モミやツガ,アカガシ,ツクバネガシ,ウラジロガシ,カゴノキ,イヌガシシロダモ,ヤブニッケイ,シキミソヨゴクロバイ,ハイノキ,ヤブツバキヒサカキサカキなどが出現します.林床(りんしょう)には,ミヤマシキミ,サンヨウアオイ,ベニシダ類などの陰生(いんせい)植物が見られます.

4. 二次林

 弥山原始林内の二次林として,アカマツニ次林(アカマツ–クロバイ群落)があります.アカマツニ次林にはクロバイヤブツバキなどの照葉樹の他に,ネジキ,リョウブ,ウリハダカエデコバノミツバツツジなどの落葉広葉樹が混生(こんせい)し,林床には陽生(ようせい)植物のコシダウラジロが密生(みっせい)する傾向があります.ネズやヤマツツジ,ススキ,ガンピ,ミヤジマママコナなどの陽生植物を持つ型(かた)とイヌガシシロダモなどの陰生植物を持つ型に分けられます.

宮島の植生の変遷

1.明治のはじめまで

 宮島の植生は,昔からあまり手を加えられることなく比較的自然な状態で保たれてきたと考えられています.しかし,まったくの手つかずだったと言うわけではありません.例えば,廿日市市に現存する洞雲寺(とううんじ)に対する1541(天文(てんぶん)10)年発行の許可書(きょかしょ)が残(のこ)っており,従来(じゅうらい)通(どお)り宮島で薪(まき)をとってもよいという内容が記されています.また,江戸時代には宮島奉行(ぶぎょう)という森林行政機関(ぎょうきかん)が置かれていました.明治になって行なわれた調査の際の資料にも,薪炭(しんたん)用として利用されたという記録が残っていますが,森林犯罪者(はんざいしゃ)に対する刑罰(けいばつ)の記述(きじゅつ)があり,森林を利用しながらもかなり厳密(げんみつ)に管理(かんり)されていたことが伺(うかが)えます.

2.昭和のはじめまで

 江戸時代に起った山火事(やまかじ)で,弥山原始林など一部を残して,宮島の森林のほとんどが焼けてしまったと考えられています.現在ある植生は,基本的には,その後,自然状態で回復(かいふく)したものです.ただし,宮島の一部の場所では,明治から昭和にかけて,とくに大戦(たいせん)の前後に,いくらか手を加えた形跡(けいせき)があります.例えば,現在広島大学大学院理学研究科附属宮島自然植物実験所の敷地(しきち)になっている道沿(ぞ)いに,約2000 本のサクラ(ソメイヨシノなど)が植栽(しょくさい)されたという記録も残っています.また,紅葉谷などで見られるカエデ類も,おもに江戸時代末期から現在にかけて植えられたものが成長して,大きくなったものです.現在では,周囲(しゅうい)と調和(ちょうわ)し,宮島になくてはならない景観(けいかん)の一つになっています.

3.現在の植生

 日本の高度成長期(こうどせいちょうき)に行われた研究では,その当時の植生が記録されています.鈴木ほか(1975)によれば,当時,宮島全体の90%弱(じゃく)がアカマツ林などの二次林であるとされています.ただし二次林といっても,宮島のものは山火事や伐採(ばっさい)後に自然に更新(こうしん)し,そこに現れる種などの構成に影響がない自然度の高い二次林です.

 現在,島の面積(めんせき)の90%以上が国有林(こくゆうりん)で,そのほとんどが森林です.また,大元公園などで見られるモミ・ツガ林や,山頂(さんちょう)付近で見られる植生,とくに岩船岳(いわふねだけ)の頂上付近で見られるコウヤマキ林などは自然度の高い森林で,非常に貴重(きちょう)なものです.

山火事と植生の回復

 1984(昭和59)年に宮島南西部御床浦(みとこうら)付近から出火(しゅっか)した山火事では,島の面積の約1/10にあたる約250 haが焼失(しょうしつ)しました.その後,焼け跡(やけあと)は自然の回復力(かいふくりょく)にまかせていたところ,コシダが一面覆(おお)った状態(じょうたい)になっていました.20年以上経(た)った現在では,アカマツ林になりつつあります.あと100-200年経てば,宮島本来の常緑(じょうりょく)の植物が優先(ゆうせん)するうっそうとした森になることが予想(よそう)されます.

宮島以外の島の植生は本土と似ている

 宮島以外の瀬戸内海の島で人の住んでいる島では,本土と似(に)た植生になっています.海で隔(へだ)てられた島であっても,その島に特異(とくい)な植生が必ず存在するわけではありません.また,小さな無人島(むじんとう)でも特異な植生が見られますが,それほど豊かな植物相(しょくぶつそう)は見られません.宮島だけが他の島では見られない植生になっています.この理由として,宮島では,稲作農業(いなさくのうぎょう)がほとんど行(おこな)われなかったために,里山(さとやま)が形成(けいせい)されず,結果として瀬戸内海に存在する本来(ほんらい)の植生を保(たも)つことができたと考えられます.周囲の植生が里山になったため,現在では周(まわ)りとは異(こと)なった植生が存在するのです.


「宮島の植物と自然」内のページ

「宮島の植物と自然」(広島大学大学院理学研究科附属宮島自然植物実験所 2009)内で掲載されているページ.

  • 12-17 pp.

文献(引用)