「植物標本の作り方」の版間の差分

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*重石(目安として10 kg程度)
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**ベニア板(1セット2枚)
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**荷造り用ひも または 重石(目安として10 kg程度)
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== 3. 標本の作り方 ==
 
== 3. 標本の作り方 ==

2022年1月18日 (火) 20:42時点における最新版

植物標本の作り方

準備

  • 標本作製セット
    • ベニア板(1セット2枚)
    • 荷造り用ひも または 重石(目安として10 kg程度)
    • 吸い取り紙(古新聞)

3. 標本の作り方

植物がしおれないうちに押すのが,よい標本を作るコツである.新聞紙を1ページごとに切り離し,それを半分に折る.折った間に植物を荷札ごとはさむ.採集順にはさんでいくと,その日の道順や採集地の状況を思い出し,記録を取るのに都合がよい.新聞紙には荷札の標本番号と同じ番号を記入しておくと,後々便利である.標本は出来上がりの形を考えて姿を整え,葉や花は重ならないようにする.花にはちり紙をあてるときれいに仕上がる.葉は表だけでなく,2,3枚は裏が見えるようにする.

植物をはさんだ新聞紙の上下に吸湿用の新聞紙,あるいはダンボール紙をあてる.これを繰り返して重ねていく.この場合,均等な高さになるよう交互に植物の向きをかえたり,茎の位置をかえる.30 cmくらいの高さになったら,上に押し板を置き,重石をのせる.このとき,ひっくり返らないよう壁側に寄せるなど工夫する.

吸湿用の新聞紙またはダンボール紙は,はじめの2,3日は1日2回以上乾いたものと取りかえる.吸湿紙交換のとき,標本の姿を整える.最初に標本をはさむ時は姿を整えにくい.一度押してからのほうが具合がよい.このときの処理がよい標本を作る決め手になる.乾燥機に入れるにしても,一度押した後,姿を整えてからのほうがきれいに仕上がる.

木本の厚い葉はなかなか乾きにくく,乾燥しないうちに落ちてばらばらになりやすい.押す前に熱湯に浸すか,アルコールを葉柄の付け根につけるとよい.あるいは,電子レンジで数十秒処理してもよい.

水分の多い植物は腐りやすいので,吸湿用の新聞紙を頻繁に取りかえねばならない.新聞紙を上下数枚ではさみ,アイロンがけをするのもよい.布団乾燥機を利用することも考えられる.きれいな標本を作るには,いかにして早く乾燥させるかにかかっている.大きい果実はそのままコンロで乾燥させるか,中の様子がわかるように薄く切り,新聞紙にはさんで押して乾燥させる.多汁質の果実は液浸標本にする.

取り替えた湿った新聞紙は日に干して乾かし,次ぎの交換用とする.

4. 標本が乾いたら

乾いた標本はピンとなって葉が垂れ下がらない.乾いたら次にラベルを用意する(下図参照).ラベルは白紙を6-7×10-12 cmに切って使用する.記入する事項は,科名,植物名(学名と和名),採集地名(詳しいほどよい.最近では,GPSデータなどを記入することが多い),生育地の状況(海抜,環境[日のあたる道端,暗い林内,湿地,石灰岩地,酸性土壌またはアルカリ性土壌,砂浜,岩上,樹上着生など]),採集個体の状態(高さ,太さ,花の色など),採集年月日,採集者名,標本番号(同一個体あるいは同一群落の小型の草本は同じ番号をつける),同定者の氏名などを記入する(例参照).世界中の人が情報を読み取れるようにするため,ラベルは英語表記を中心とし,日本語表記は併記する程度する.記入が済んだラベルは,標本と共に新聞紙にはさんでおく.

標本ラベルの例

Herbarium of Hiroshima University (HIRO)

Pinus densiflora Sieb. et Zucc. アカマツ

Japan. Honshu, Hiroshima-ken, Saeki-gun, Miyajima-cho, Miyajima Island, en route from Omoto Park to Shimo-murohama, ca. 10 m alt., at trail side. April 15, 2006 Leg. T. Yamaguchi 12345 広島県佐伯郡宮島町 宮島大元公園-下室浜

5. 標本を台紙に貼る

出来上がった標本は,ラベルと共に新聞紙にはさんだまま保存してもよい.印刷インクがある程度防虫になり,また実体顕微鏡で細部を観察するとき便利だからである.しかし,新聞紙からはみ出して傷めたり,ラベルが抜けたりする短所もある.標本交換や寄贈には新聞紙にはさんだままやりとりするのがしきたりである.

公共の標本室では,整理,分類に便利なように台紙に貼り付ける.台紙は白紙がよい.厚すぎるとかさばり,重くなって不便である.薄すぎるのは取り扱うとき持ちにくく,標本も傷む.画用紙は吸湿性が高いので適当でない.台紙の大きさは40×27 cm位のものを用いている.諸君のはこれより小さくてよいだろう.紙の厚さは重さで表現する.標準サイズの台紙の場合,10枚で200 g程度である.

標本を台紙にのせる前に,ラベルを台紙の右下角に貼り付ける.次ぎにラベルの記載事項がかくれないように標本をのせる.台紙1枚に1種を貼る.同種でも,採集場所が異なれば別の台紙に貼る.複数のものを貼りつけると分類できなくなるし,ある地域の植物相を調べるのに不都合である.

貼りつけには,アラビア糊がついた巾3-5 mmの紙リボンで要所要所をとめる.標本が動かなければよく,必要以上にとめるのはよくない.太い枝をとめるには,リボンを指先で枝にそって直角に押し付ける(図参照).レース糸で縫いつけてもよい.セロハンテープは何年ももたない上,台紙も汚れるのでよくない.米国では瞬間接着剤でとめている標本室もある. 糊付き紙リボンは,郵便切手シートの端などで代用できる.

標本から取れてしまった種子や果実,こぼれたシダの胞子は,紙を折って作った袋に入れ,それを台紙に貼りつける.そのとき,多の標本からの混入に注意する.大事な標本にはカバーをつけることがある.

リボンのとめ方,横から見たところ


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